久留米大CBT講義

May 14, 2018 | Author: Anonymous | Category: N/A
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認知行動療法の実践 ー不安障害・気分障害のCBTのコツー

原田メンタルクリニック・東京認知行動療法研究所

原田誠一

認知療法とは? ①「物は考えよう」という誰もが日常的に 行っている認知・思考の操作を、

②患者と治療者がスクラムを組んで、 ③意識的・系統的・継続的に行う作業 (*)1970年代にベックが創始

認知療法のABCモデル ・A(出来事)→B (認知) →C (結果) ①認知療法で、B(認知=自動思考)が変化 ↓

・A(出来事)→B´(認知)→C´(結果) ↑ ②認知の変化で、C(結果:感情、行動)も変化 (*)Activating events, Beliefs, Consequences (*)例:調子が悪い→悲観、自責→一層悪化 (*)徐々に人間観・世界観(スキーマ)も変化

異なる認知の例:パニック障害 パニック発作:不安、動悸、呼吸困難、胸の痛み 冷や汗、ふるえ、しびれ、めまい、吐き気 認知1:「命に関る重病!」;心臓発作、肺の病気、脳卒中 身体感覚に対する破局的解釈 結果1:不安が増して身体症状が悪化する 予期不安・外出(広場)恐怖の形成につながる 認知2:命には別状なく、冷静にしていればじきにおさまる 結果2:早い回復、予期不安・外出恐怖も軽くなる

CBTと自動思考:only one からone of them へ 見方A・B・Cを加えて バランスを良くする

見方B

only oneからone of them へ

状況 見方A

悲観、自責 関係づけ など

ミス、トラブル 叱責、対立 など

見方C

自動思考≠誤った考え 自動思考

自動思考がonly one であるのがまずい

認知療法による変化 ① 自動思考の把握 ② 適応的・合理的思考の案出 ・only one から one of them へ ・バランスを立て直す(→「気分の変化」) ③ 経過観察、経過からのフィードバック ・jumping to conclusion をやめ、待てるように ・情報をフィードバックし、バランスの良い認知に ④ 自分のテーマ(スキーマ)の修正 ・社会不安障害→欠点が察知されて、負の印象 ・人格障害(例:BPD)→見放される、全否定 ・統合失調症→周囲の言動の関係づけ など

認知行動療法のメリット ・シンプルで当事者・家族が内容を理解しやすい ・当事者の対処力を伸ばし、主体性を育てる ・効果のエビデンスがある(気分障害、不安障害)

(*)認知行動療法が精神療法の代表格に!

(*)適応を気分・不安障害以外に広げる試み

不安障害の心理教育・認知行動療法

原田メンタルクリニック・東京認知行動療法研究所 原田誠一

不安障害の心理教育・認知行動療法 1.強迫性障害 OCD 2.社会不安障害 3.パニック障害 4.その他 外傷性精神障害 解離性障害 など

OCDの認知行動モデル:① 侵入思考

侵入思考の例

侵入思考の心理教育のメリット 1.ノーマライジング:90%の正常者が体験 2.強迫観念との異同、治療の方向性 → 右側へ抜ける「正常ルート」の存在

侵入思考がたどる「正常なルート」

侵入思考の心理教育のメリット 1.ノーマライジング:90%の正常者が体験 2.強迫観念との異同、治療の方向性 → 右側へ抜ける「正常ルート」の存在 → 治療の目標の提示 侵入思考を押さえ込み出ないようにするのではなく、 右側へ抜ける「正常ルート」への移行(復帰)が目標

OCDの認知行動モデル:② 過大評価

過大評価の心理教育 過大評価のもとになる信念の例 ・責任の過大評価 例:物事がうまくいかないと、自分のせいと感じる 「危険がわずかでもある」と予測される時に、 万全を尽くさないと、災厄は自分のせい

過大評価の心理教育 過大評価のもとになる信念の例 ・責任の過大評価 ・思考の意味の過大評価 例:悪いことを考えるのは、悪事を実行するのと一緒 不吉なことを考えると、実際に起こりやすくなる (→思考と行為の混同:TAF) 暴力的なことを考えるのは、本性がそうだから

過大評価の心理教育 過大評価のもとになる信念の例 ・責任の過大評価 ・思考の意味の過大評価 ・思考をコントロールすることへのこだわり 例:意思を強く持って、考えをコントロールすべきだ 考えをコントロールしないと、気がくるってしまう

過大評価の心理教育 過大評価のもとになる信念の例 ・責任の過大評価 ・思考の意味の過大評価 ・思考をコントロールすることへのこだわり ・脅威の過大評価 例:世界は危険に満ちあふれており、気をぬけない 自分は他人よりも不運な目に遭いやすい

過大評価の心理教育 過大評価のもとになる信念の例 ・責任の過大評価 ・思考の意味の過大評価 ・思考をコントロールすることへのこだわり ・脅威の過大評価 ・曖昧さへの不耐性

例:迷う時は、疑問が氷解するまで熟考すべき 自分が犯罪を犯さない人間だと立証すべき

過大評価の心理教育 過大評価のもとになる信念の例 ・責任の過大評価 ・思考の意味の過大評価 ・思考をコントロールすることへのこだわり ・脅威の過大評価 ・曖昧さへの不耐性 ・完全主義 例:物事は、完璧にこなさなければならない 小さな失敗は、完全な失敗と同じである

過大評価の心理教育 過大評価のもとになる信念の例 ・責任の過大評価 ・思考の意味の過大評価 ・思考をコントロールすることへのこだわり ・脅威の過大評価 ・曖昧さへの不耐性 ・完全主義 (*)「正常ルートでは適切な評価」という説明

OCDの認知行動モデル:③ 強迫行為

強迫行為の心理教育 ・強迫行為により不安は解消するが、あくまで一時的 ・強迫行為は、次のような悪循環を生んでしまう ・強迫行為をしないと安心できなくなる( vs 健康時) ・強迫行為により、過大評価が強化されてしまう ・回避行動もあり、「強迫なしで大丈夫体験」(↓) ・強迫行為を繰り返すと、行為の記憶の自信(↓) (*)強迫行為の回数がふえ、やりたくなる機会もます (*)強迫行為により、侵入思考の強度・頻度がふえる (*)家族に保証を求める「巻き込み」も、同じ働き! → 強迫行為で病態が悪化する事情を理解してもらい、 「強迫行為に関する認知」を変えていく必要がある

OCDの認知行動モデル:④ 回復過程

回復のプロセスの心理教育 ・「侵入思考を押さえ込み、出ないようにする」ではなく、 右側へ抜ける「正常ルート」への移行(復帰)が目標 (誤)「怖い考えが出てこないように根絶したい」 (正)「考えが頭をよぎっても、慌てず流せるように」 ・治療を通して、 ・強迫行為なしで安心できるようにする工夫、練習 ・過大評価をやわらげて、ほぐす工夫、練習 ・回避や巻き込みを減らしてなくしていく工夫、練習

(*)今でも適切な評価・対応を行っている(他のテーマ) (*)強迫を行いたくなる時に、病態モデル想起が有効 (*)生活が狭小化している際は、生活再建もテーマに

強迫性障害の認知行動療法 ー薬物療法抵抗性OCDでCBTが奏功した症例ー

1.確認強迫 2.不潔恐怖 3.加害強迫 4.正確さ、対称性に関する強迫 5.はっきりした強迫行為のないOCD

強迫性障害のCBT①:確認強迫 20代 女性 ・X年秋、確認強迫が出現 例:ゴミを中々捨てられない(例:大事な物が混入?) 歩行中に何か落とした気がして繰り返し振り返る はがき、封書を投函できない 使っていないのに、電話を使ったような気がする →電話の確認(自分、家族)、法外な料金請求が怖く 電話を使えない など ・X年12月、A病院精神科受診.SSRIで改善しなかった ・X+1年10月、CBTを希望して受診

強迫性障害のCBT①:確認強迫 ・心理教育を施行して(#1)、不安階層表を作成(#2) ・不安階層表の低い項目から、各場面の認知を検討し、 ホームワークで曝露反応妨害法 ERP(→ 結果をメモ)

・現在までに(#22)、不安階層表の全項目をクリアーし 強迫症状はほぼ消褪 (Y-BOCS:40→3)

OCDの行動療法①:不安階層表 不潔恐怖の不安階層表の例 100:公衆トイレの便座に座って用をたす 90:公衆トイレのドアノブに触れる 80:地面に落ちた物を拾う ・ ・ 30:自宅の床に落ちたものを拾う 20:自宅の居間のドアノブに触れる 10:手袋を使わないでリモコンに触れる (*)「巻き込み強迫の不安階層表」も有用

OCDの行動療法②:曝露反応妨害法 ・曝露(エクスポージャー):回避している刺激と接触する ・反応妨害:いつも行っている強迫行為をしないで我慢する

→ 徐々に慣れ(馴化)が生じて不安が減り、苦手意識(↓) (*)OCDの治療法としての有効性が立証されており、 第一選択の精神療法として広く認められている

有効なことがある情報提供の例 情報提供・収集が、確認強迫の治療進展に役立つ場合 ・例1:各種器具・機械の構造、仕組み、危険性 ・水道の蛇口の構造 ・冷蔵庫の扉がきちんと閉まるようになっている仕組み ・コンセントから出火する危険性の評価 など

・例2:小さな破片の危険性 小さな破片(金属、ガラスなど)が皮膚・消化管から 入っても、重大な結果(例:死亡)には至らない説明

診察室で行う確認強迫のCBTの例 ・「財布などから何か落とさなかったか?」という確認 → どうすれば財布から実際に落とせるか?(行動実験)

・水道の蛇口 →「コップを3分間置いて、どれくらいたまるか?」 ・「投函」に関する確認強迫 → 葉書や封書を治療者あてに、さっと一回で出す練習

強迫性障害の認知行動療法 ー薬物療法抵抗性OCDでCBTが奏功した症例ー

1.確認強迫 2.不潔恐怖 3.加害強迫 4.正確さ、対称性に関する強迫 5.はっきりした強迫行為のないOCD

強迫性障害のCBT②:不潔恐怖 20代 女性 ・X年(16歳)、不潔恐怖・洗浄強迫が出現 ・学校内で、使用済みの(?)男性避妊具を目撃 ・履いていた上履きを通して、汚染が拡大した不安 ・靴、シューズブラシ、ズボン、カーテン、 アクセサリー、ぬいぐるみ など →当該物品にさわれず、手足を繰り返し洗うように ・X+5年、心理療法を開始し2年間受けたが改善せず ・X+7年、CBTを希望して受診

強迫性障害のCBT②:不潔恐怖 ・心理教育を施行して(#1)、不安階層表を作成(#2) ・不安階層表の低い項目から、各場面の認知を検討し、 診察室でERP(→ホームワークにして、結果をメモ) ・現在までに(#17)、不安階層表の項目をクリアーし 強迫症状がほぼ消褪

不潔恐怖の心理教育で役に立つ ことのある簡単な情報提供 ・よくみられる「ばい菌」をめぐる患者の認知 ① 「以前不潔な手で触った物=ばい菌が繁殖しており不潔・危険」

→ 情報提供:ばい菌が繁殖する必要3条件=「水、栄養、温度」 (*) 医学部での細菌培養実験の話を添えるとよい場合 → 本人が気にしているものは、「3条件」を満たすだろうか? → 多くのものは3条件を満たさないので、さほど不潔でない

不潔恐怖の心理教育で役に立つ ことのある簡単な情報提供 ・よくみられる「ばい菌」をめぐる患者の認知 ②

・大便、尿、汗を大変不潔で危険とみなす場合が多い(特に大便) → 情報提供 大便=病原菌が混入していて危険なのは例外的な場合だけ (例:食中毒、ノロウイルス感染で下痢している時) 原則的に腸内細菌は非病原性、人間に不可欠な存在 →抗生物質で腸内細菌が減ると下痢、偽膜性腸炎 尿=病原菌・毒性なし 汗=尿に準ずる組成(病原菌・毒性なし) (*)医療関係者が「大便、尿と接触する多さ」(例:おむつ交換、 注腸造影、直腸診)と「対応」を説明することが有効な場合

不潔恐怖の心理教育で役に立つ ことのある簡単な情報提供 ・「体液」をめぐりみられることのある認知

(*)各種体液の危険性の過大評価 ・例1:長時間放置され乾燥した血液(例:道路の上の血液)にも、 新鮮血同様の感染性があり、極めて高いリスクがある ・例2:精液に触れると、皮膚や粘膜を介して体内から生殖器・ 生殖細胞に入りこんで、当人のDNAを変化させてしまい、 子孫にも影響を及ぼす

不潔恐怖の治療で 役に立つことのある情報収集 ① ・必要時、患者に役所や企業などに問い合わせをしてもらい、 正しい情報を入手することで、治療が進展する場合がある 例:① 手洗い石鹸を使っている患者が、石鹸を落とすために 長時間手をゆすいでいる ② 手洗い石鹸を作っている企業に患者が問い合わせて、 「どの程度ゆすげばよいか」「もしも石鹸が残った場合、 人体への毒性はあるか」についての情報入手 ③ 「泡が消えればそれで十分」「人体への悪影響はない」 と聞いて安心 (*)「食器洗い洗剤」「シャンプー」「リンス」「歯磨き粉」も同様 (*)自助能力を高めるため患者自身に行ってもらうのが基本

不潔恐怖の治療で 役に立つことのある情報収集 ② 農薬の残留を心配して、洗浄強迫がひどくなっている場合 ・農林水産省HPの「農薬コーナー」内の「農薬の基礎知識」 ・農薬認可までの仕組み:研究・開発・登録・市販段階 ・安全性の検査の仕組み 専門機関「農薬検査所」での厳しいチェック 体重1kg当たりの1日摂取許容量(ADI)の設定 その農薬を、人が生涯毎日摂取しても人体への 危害が出ないとみなせる量 (*)「電池の液漏れ」「水銀」「鉛」「割れた蛍光灯」なども同様

不潔恐怖の症例でみられる ライフイベントや葛藤 ① ・不潔恐怖の症例では、様々な身近なライフイベントや葛藤が OCDの発症・維持に関わっていることが少なくない

例:配偶者・パートナーの生活様式(衛生観念の相違など) →トイレの後で手を洗わない、お尻を洗わず入浴 など

自身の罹病、親しい人(例:子ども)の大病、病死

不潔恐怖の症例でみられる ライフイベントや葛藤 ② 例:配偶者・パートナーとの性生活の問題、不調 →性行為への違和感、嫌悪感 生活目標の変更(例:出産、育児) 特定の家族への拒否感、嫌悪感 →当該の相手や相手が触れた物への不潔恐怖

(*)この種の問題の整理・対応には、患者の内省を 進めるだけでなく、治療者の共感を高める作用もある

強迫性障害の認知行動療法 ー薬物療法抵抗性OCDでCBTが奏功した症例ー

1.確認強迫 2.不潔恐怖 3.加害強迫 4.正確さ、対称性に関する強迫 5.はっきりした強迫行為のないOCD

強迫性障害のCBT③:加害強迫 30代 男性

・X年、加害強迫が出現 ・運転中に「誰かをひいたのではないか?」と心配に ・同じ道を何回も行き来し確認(長い時は3時間以上) → 仕事、生活に支障をきたすようになった ・X+1年、B精神科でSSRIの投与を受けたが改善せず ・X+2年、CBTを希望して受診

強迫性障害のCBT③:加害強迫 ・心理教育を施行して、病態・治療法を理解(#1) ・確認をしないよう留意して、運転記録をつける ・現在までに(#10)、強迫症状がほぼ消褪

加害強迫の標準的な行動療法 -最悪のストーリー(シナリオ)、思考の誇張法・心配な場面の最悪の事態を書き出し、繰り返し曝露 ・例:プールで泳いでいる時に、人とぶつかり軽く相手を キックしてしまった.あの時は気づかなかったが、実は ひどい打撲で骨折しており、手術が必要になった.下手 をすると、体に障害が残ってしまう可能性がある そうすると訴訟になり、裁判で自分の過失が認定され 有罪となる.多額の賠償金を請求され、自分だけでなく 家族も負債と不名誉で苦しむことになる (*)ループテープを用いる場合もある

加害強迫の診療のコツ ① ー暴行・殺人のニュースによる混乱への対応ー ・暴行・殺人を犯す人を、以下の4類型に分類して提示 タイプ1:粗暴犯=普段から粗暴行為を行っている 〃 2:積年の恨み(DV、いじめなど) →「暴行・殺人は当然の報い」(=確信犯) 〃 3:善悪の判断不能(例:覚せい剤、知的障害) 〃 4:いわゆる「快楽殺人」に該当するケース

・「各類型に該当するところ」「該当しないところ」を検討

加害強迫の診療のコツ ② ー自傷にまつわる見聞による混乱への対応ー ・本人が見聞した自傷行為の経緯を聴取する

→例:境界性人格障害の知人がリストカット うつ病の人の自殺企図 ・当該の人と「似ている/いない所」を検討、整理

加害恐怖の診療のコツ ③ ー日常的な攻撃性への過敏性への対応ー ・自他の攻撃性に(僅かなものであっても)過敏に反応 →「加害関連の侵入思考の過大評価」につながる →① 過敏さの由来の検討(生活史)とその整理 ② 攻撃性を体験する際に整理 (思考記録など)

強迫性障害の認知行動療法 ー薬物療法抵抗性OCDでCBTが奏功した症例ー

1.確認強迫 2.不潔恐怖 3.加害強迫 4.正確さ、対称性に関する強迫 5.はっきりした強迫行為のないOCD

強迫性障害のCBT④:正確さ 10代 男性 ・X年、正確さに関する強迫症状が出現(特に、書字) 「きちんと書けるまで、何回も書き直してしまう」 「納得いくまで書き直さないと、気がすまない」 「30回以上書き直して、紙が擦り切れることも」 「授業」「自宅での勉強」「宿題」などで大きな支障 ・X年、C精神科でSSRIの投与を受けたが改善せず ・X+1年、CBTを希望して受診

強迫性障害のCBT④:正確さ ・心理教育を施行して(#1)、認知行動療法を開始 ・本人の希望で「横棒をぞんざいに書く」練習から開始 ・「宿題提出」がプレッシャーになっていたので診断書 ・現在までに(#5)、強迫症状がほぼ消褪し安定

強迫性障害の認知行動療法 ー薬物療法抵抗性OCDでCBTが奏功した症例ー

1.確認強迫 2.不潔恐怖 3.加害強迫 4.正確さ、対称性に関する強迫 5.はっきりした強迫行為のないOCD

強迫性障害のCBT⑤ 強迫観念のみで強迫行為がみられない症例 20代 男性 ・X年、「物事がうまくいかないようにしようとする」「人間 関係をぶち壊そうとする」内容の強迫観念が出現 例:「勉強中に周りの音に意識を向けて落第しよう」 「相手に失礼なことを言って関係をぶち壊そう」

・本人の認知、対応 「放置すると大変」→「押さえつける試み」(反復しない) ・X年、X+2年にD、E精神科でSSRIの投与 → 無効 ・X+4年、CBTを希望して受診

強迫性障害のCBT⑤ 強迫観念のみで強迫行為がみられない症例

・心理教育を施行して(#1)、認知行動療法を開始 ・「ぶち壊そうとする考え」を怖がらずに、流す練習 ・現在までに強迫症状がほぼ消褪し、順調な経過

うまくいった際の認知・対処の 評価、定着の重要性 OCD患者は(その強迫心性もあり)、うまくいかなかった 体験にもっぱら着目して報告することが少なくない 例:確認強迫、加害強迫がある患者 ・本人の報告内容のパターン 職場では確認強迫が、人ごみでは加害恐怖が出て きてしまい抑えられない(→嘆き、無力感) ・面接を通して合意できた適応的認知・対処パターン 職場:サッサッ、パッパッと勢いをつけたらうまくいった 人ごみ:すれ違う一瞬で、大したことをできる訳ない (*)適応的パターンを評価・記録・参照する意義(カード)

強迫症状を呈した統合失調症のCBT

1:顕著な確認強迫が認められた症例 2:顕著な洗浄強迫が認められた症例

統合失調症と強迫性障害の関係 ・以前から、強迫性障害と統合失調症の関係は 注目を集めてきた ・強迫性障害が、後に統合失調症発症にいたる 率はさほど高くない ・統合失調症の経過中に強迫性障害がみられる ことはかなりある (10~25%程度) ・統合失調症でみられる強迫症状は難治性で 治療に苦慮する場合が少なくない

統合失調症に強迫性障害が 合併した症例① 20代 男性

・20代前半、幻覚妄想状態になり発症 ・陽性症状消褪後、強迫症状が出現

・顕著な巻き込み型の確認強迫のため、 本人・家族共に非常に困っていた ・SSRIを含む薬物療法で改善しなかった

統合失調症に強迫性障害が 合併した症例 ① 不安階層表 100:テーブルや床に何もないかどうか確認 90:机の上の物が落ちないかどうか確認 ・ ・ 20:冷蔵庫が閉まったかどうかの確認 10:水道の蛇口の確認 (*)母親に保証を強要. できないと確認(↑) (*)認知を検討・修正し暴露反応妨害法を施行

統合失調症に強迫性障害が 合併した症例 ① 認知の変化例:冷蔵庫のドアの開閉 ①元来の認知 「冷蔵庫のドアが閉まったかどうか、心もとない」 (→「繰り返し」「大きな音をたて閉める」「家族の保証」) ②情報提供:冷蔵庫のドア・パッキンの説明 (磁力を用いた仕組の説明、実地検証) ③検討:「繰り返し」「大きな音をたてる」「保証」の必要は? ④認知の変化:磁力を用いたドアパッキンは信頼できる 「繰り返し、大きな音、保証」は必要ない

統合失調症に強迫性障害が 合併した症例 ① 治療経過 ・20セッションまでに不安階層表の全項目と 追加10項目をクリアー ・巻き込み型の強迫症状が軽快 ・この間アカシジアのため抗精神病薬は減量 (*)強迫得点(Y-BOCS):治療前31→後11

統合失調症に強迫性障害が 合併した症例 ① 強迫症状消褪後に意識化された不安 精神病体験後・自信喪失現象 ・精神病理体験が消褪した後もその記憶が残り、自分の 知覚・判断・計算などに自信をもちにくいという訴え. 例:幻視の記憶→視覚判断(例:何もない)に自信がない 幻聴、思考吹入の記憶→簡単な計算に自信を持てない

→不安への対処としての強迫行為 保証強要 感覚強度増大・不安対処法

統合失調症に強迫性障害が 合併した症例 ① 精神病体験後・自信喪失現象への精神療法 ① 明確化:本人の実感との合致度を検討 ② 受容 :本現象の自然さ・つらさを受け止める ③ 確認 :現在陽性症状が消褪していることを確認 ④情報提供:一般に、「視覚認知」「計算」「日常的な 状況判断」などは障害されないと説明 ⑤ 検証 :簡単な視覚テスト、計算テストを行い検証 ⑥ 対処 :不安を減らす合理的・適応的方法の工夫 (*)以上の対応で不安(↓)、強迫(↓)、自信(↑) (*)統合失調症のリハビリテーションの一つの領域 (認知リハビリテーションの一つ)

強迫症状を呈した統合失調症のCBT

1:顕著な確認強迫が認められた症例 2:顕著な洗浄強迫が認められた症例

統合失調症に強迫性障害が 合併した症例 ② 40代 女性 ・20代前半、幻覚妄想状態になり発症

・陽性症状消褪後、強迫症状が出現 ・顕著な不潔恐怖、強迫行為で生活に支障 ・SSRIを含む薬物療法で改善しなかった

統合失調症に強迫性障害が 合併した症例 ② 不潔恐怖・強迫行為の具体例 ・鉛筆、消しゴム、電話機をさわる時は使い捨て手袋 ・ドアのノブや新聞をさわる時にはティッシュ・ペーパー ・最近10年以上、手づかみで食べ物をたべていない ・薬も手を使って飲めず、箸でつまんで一粒ずつ飲む

・マスクをしないと、遠方への外出ができない ・外出後は、長時間手洗いとうがいをする

統合失調症に強迫性障害が 合併した症例 ② 不安階層表

100:使い捨て手袋を使わずにゴミを捨てる 90:手を洗わないで鼻をかむ ・ ・ 20:手袋を使わないで鉛筆や消しゴムにふれる 10:手袋を使わないで電話機にふれる

(*)認知を検討・修正し、暴露反応妨害法を施行

統合失調症に強迫性障害が 合併した症例 ② 認知の変化例(1):鉛筆・消しゴム・電話機の不潔度 ①元来の認知 「鉛筆、消しゴム、電話機は不潔」 「以前不潔な手で触ったため、ばい菌が繁殖」 ②情報提供:ばい菌が繁殖する必要条件 「水分、栄養、温度」

③検討:鉛筆・消しゴム・電話機は3条件を満たす? ④認知の変化:鉛筆、消しゴム、電話機でばい菌は 繁殖できない → さほど不潔でない

統合失調症に強迫性障害が 合併した症例 ② 認知の変化例(2):ゴミ捨て場のドアのノブの不潔度 ①元来の認知 (ばい菌・全移動の法則) 「マンションのごみ捨て場のドアのノブは極めて不潔」 理由:ティッシュ・ペーパーで洟をかみゴミ箱 →ゴミ箱からゴミ袋に移す家族の手 →家族の手からごみ捨て場のドアのノブ →次にノブにさわる人の手 (*)以上の過程でばい菌が100%移動する ∴「風邪の人のばい菌がすべてついてしまう危険」 →ノブにふれた後、特に顕著な洗浄強迫 ②情報提供 ③検討を通して、 ④認知が変化(→行動も変容=ノブを素手でさわれる)

統合失調症に強迫性障害が 合併した症例 ② 治療経過 ・20セッションまでに不安階層表の全項目と 追加10項目をクリアー ・強迫症状による生活の支障が減少 ・この間、処方の変更は行っていない

統合失調症に強迫性障害が 合併した症例 ② 生活面での変化の具体例 ・鉛筆、消しゴム、電話機を素手でさわれる ・ドアのノブや新聞も平気でさわることができる ・10年ぶりに手づかみで食事(生春巻きが好物に) ・薬を普通に手を使って飲める ・マスクをしないでどこにでも外出可 ・手洗いやうがいも手短にすますことができる (*)強迫症状得点(Y-BOCS):治療前 32 →後 0

統合失調症に強迫性障害が 合併した症例 ② 強迫症状消褪後に意識化された不安と対応

・不安内容:うがいや手洗いをしなくなったら、 気にしていた容姿コンプレックスが 出てきた.うがいや手洗いはコンプ レックスを忘れるお守りの役もして いたのかもしれない. ・対応:処方変更と精神療法で速やかに改善

OCDの観点を導入して改善した症例 1.うつ病が遷延していた症例 2.対人恐怖(自己臭恐怖)が遷延していた症例 3.男友達への乱暴行為が止まらなかった症例

うつ病が遷延していた症例 20代 男性 現病歴:X年、自宅で終日PCと向き合う生活を開始 A精神科を受診し、うつ病の診断で治療開始 症状改善せず、X+1年に筆者の外来を受診

うつ病が遷延していた症例 治療経過:自宅での生活を聴取 ・インターネットで興味のある事柄を調べる毎日 ・瑣事であっても、きちんと調べないと気がすまない ・今では、一々調査するのが苦痛だが止められない ・「バカでいいから、調べなくてもいいようになりたい」 ・「どうしたらよいかわからず、見当がつかない」 → OCDの心理教育・CBTで、速やかに改善

OCDの観点を導入して改善した症例 1.うつ病が遷延していた症例 2.対人恐怖(自己臭恐怖)が遷延していた症例 3.男友達への乱暴行為が止まらなかった症例

自己臭恐怖が遷延していた症例 20代 女性 現病歴:10代後半より、自己臭恐怖が出現 高卒後就職して、自己臭恐怖が悪化 精神科で薬物療法を受けたが不変

自己臭恐怖が遷延していた症例 治療経過:初診時、以下の事情が判明 ・毎日、長時間入浴し丹念に足を洗い香水使用 ・職場でも1時間おきに足を拭き、デオドラント ・靴を脱いで勤務して、しばしば靴下を替える ・集団の中で動けない状況を避ける(例:映画) → OCDの心理教育・CBTで改善

OCDの観点を導入して改善した症例 1.うつ病が遷延していた症例 2.対人恐怖(自己臭恐怖)が遷延していた症例 3.男友達への乱暴行為が止まらなかった症例

男友達への乱暴が続いた症例 20代 女性 現病歴:男友達への乱暴行為が止まらない ささいなことで切れてしまい暴言、乱暴 精神科受診し薬物療法を受けるが不変

男友達への乱暴が続いた症例 治療経過:初診時に、以下の事情が判明 ・相手が女性と話していると、近寄って聞き耳 ・相手の自宅、携帯電話、PCを黙ってチェック ・以前の女友達と関連のある物や場所を回避 ・偶然居合わせた女性について詰問(例:電車) ・「風俗情報」「グラビア写真」を見る度に確認 → OCDの心理教育・CBTで改善

不安障害の心理教育・認知行動療法 1.強迫性障害 OCD 2.社会不安障害 3.パニック障害 4.その他 外傷性精神障害 解離性障害 など

社会不安障害の心理教育の導入 ① Ⅰ.社会不安障害・対人恐怖の類型を紹介して、 各類型に該当するか否かを丁寧に検討する ・不安惹起状況:視線、正視、スピーチ、電話、会食、 書字、お茶を出す、乾杯、排尿 など ・不安の身体表出:赤面、ふるえ、表情・態度、嘔吐、 腹鳴、おなら、発汗 など ・身体的欠陥:自己臭、自己視線、醜形 など

(*)該当類型を、初めに共通認識にすることが大切

社会不安障害の心理教育の導入 ② Ⅱ.社会不安障害の病態モデルの提示 ①刺激状況(例:人前で話す、会食する) ②心身の変化(例:緊張、動悸、ふるえ、発汗) ③心身の変化の受け止め方(=過大評価) ・自分→悲観的予測(例:混乱、おどおど) ・他人→ 〃 (例:察知、不審、忌避) ④心身の変化(=②)のさらなる増大、予期 不安の形成、忌避念慮の強化、回避行動

(*)心理教育中の患者の緊張度の度合を聞き、 治療者の感じ方を伝えることが有効な場合

SADの心理教育:病態の説明 自分 Ⅰ自己認知

他者 Ⅱ他者認知 Ⅲ 対人関係の認知

(*)背景に回避性人格障害などが存在する場合には、 「自己認知」「他者認知」「対人関係の認知」の検討を要する

SADの心理教育:病態の説明① 苦手な状況への曝露 自分

(0)苦手な状況

他者

SADの心理教育:病態の説明① 苦手な状況 (0)苦手な不安惹起状況 ・対座、正視、横に人が座る、正面から人が歩いてくる ・スピーチ、発表、電話 ・会食、お茶を出す、乾杯、パーティー ・人前での書字・パフォーマンス、排尿 など

SADの心理教育:病態の説明② 心身の変化、元来の特徴の露呈 自分

他者

(0)苦手な状況 →(1)心身の変化、元来の特徴の露呈 (例:赤面、ふるえ、発汗、硬い表情・態度、醜形)

SADの心理教育:病態の説明② 心身の変化、元来の特徴の露呈 心身の変化の出現 ・不安、緊張、表情・態度のぎこちなさ ・赤面、体・声のふるえ、動悸、発汗 ・吐き気、腹鳴、おなら、排尿困難 など 元来の特徴の露呈

・自分の視線(例:きつい、いやらしい) ・自分のにおい、ルックスの悪さ(醜貌) ・パーソナリティ、行動パターン など

SADの心理教育:病態の説明③ 相手の受け止め方の想定 自分

他者

(0)苦手な状況→(1)心身の変化、元来の特徴の露呈 →(2)相手の受け止め方の想定 (A:相手が察知する、B:悪い印象を持つ)

SADの心理教育:病態の説明③ 相手の察知、悪い受け止め方の想定 心身の変化の出現、元来の特徴の露呈 →想定①:相手が察知する →想定②:相手がネガティブな受け止め方をする 例:ふるえ、発汗、赤面

→多くの他者が察知(例:電車乗客の半数以上) →奇異の念、緊張・混乱していて可哀想、 気の弱い気の毒な人、おどおどしたおかしな人

SADの心理教育:病態の説明④ 相手の表情、しぐさ、発言の受け止め方 自分

他者

(0)苦手な状況→(1)心身の変化、元来の特徴の露呈 →(2)相手の受け止め方の想定 →(3)表情・しぐさ・発言→傷つく、確信の強化、対処(回避)

SADの心理教育:病態の説明④ 相手の表情、しぐさ、発言の受け止め方 相手の表情、しぐさ、発言

例:視線をそらす、しかめ面、咳払い、 鼻に手をやる、そわそわ、笑う、沈黙 →自分に関連付けて受け止める →傷つく、ダメージ(例:自分のせい!) →確信(忌避念慮)の強化、対処(回避など)

SADの心理教育:病態の説明⑤ ーSADの悪循環ー 「SADの悪循環」 ① 自信(↓) ② 対人緊張(↑) ③ 回避 (→ 一層 ① が悪化) (*) ① ② ③ それぞれへの対応

SADの心理教育:変化のポイント 相手の察知、悪い受け止め方の想定:その修正 心身の変化の出現、元来の特徴の露呈 →想定①:相手が察知する →想定②:相手がネガティブな受け止め方をする 例:ふるえ、発汗、赤面 →その変化を、相手が察知する →奇異の念、緊張していて可哀想 弱い人、おどおどしたおかしな人 (*)上記想定 ① ② の変化

SADの心理教育:変化のポイント 相手の察知、悪い受け止め方の想定:その修正 心身の変化の出現、元来の特徴の露呈 →想定①:相手が察知する →想定②:相手がネガティブな受け止め方をする (*)初期介入の便法 「自分が気にしていない事柄で、①②を検討する」 例:赤面恐怖の人に、「発汗恐怖」「醜形恐怖」 「電車に乗ると半数以上の人が気づき、悪い印象」 ・半数以上の人が察知すると思いますか? ・仮に気づいたとして、悪い印象? (*)投影の機制の説明

相手が察知するだろうか?① 「外界のサーチ」「注意の配分」に関する修正 例:電車の乗客は、「外界をサーチ」「外部へ注意配分」? ・患者→自分は「いつも外界をサーチ」「外部優位」 例:いつも“事故だ!”“痴漢です!”という時の感じ ・「他人も同様」と思っていることが多い(投影) (*)乗客皆が外部サーチ→緊張感、被察知感(↑) (*)話し合い、観察を通して実態を知ることが有効&必要 (*)投影の機制が、様々な形で病態と関連

相手が察知するだろうか?② 「知らない人同士の偶発的な人間関係の認識」の 観察による修正:例「電車内の乗客」 (1)元来の認知 「お互いに相手を意識しあって、緊張している」 (2)実地観察 (3)認知の変化:「ほとんどの人は、自分の時間を 呑気に思い思いに過ごしている」 (*)4つの例外の伝達 「超美男、美女」「著名人」「ど派手」「奇矯な人」

相手が察知するだろうか?③ 行動実験1:周辺視される際の感覚は? ① 元来の受け止め方(自己視線恐怖) 自分がある物を見ている際に(=中心視)、凝視の 対象にはなっていないが視野の中に入っている人 (=周辺視されている人)は、 「自分は相手に見られている!」 と強く感じて緊張している ② 面接室での行動実験

演者の視野の周辺に座ってもらい、どう感じる?

相手が察知するだろうか?③ 行動実験1:周辺視される際の感覚は? ③ 行動実験の結果 「周辺視されている時には、相手に見られていると 感じない」 ④ 修正された受け止め方 視野にたまたま入っている人(=周辺視されて いる人)は、あまり見られていると感じない 必要以上に、視野に入っている人を意識する必要 はない

相手が察知するだろうか?④ 行動実験2:周辺視で目の動きに気づく? ① 元来の受け止め方(自己視線恐怖) 視野の中に入っている相手の目の動きは、 たとえ小さなものでも見ている人に察知される → それで相手の視野に入っている時に、 自分の目の動きを過剰に意識していた ② 面接室での行動実験 治療者が患者の視野の周辺に座り、自分の小さな 目の動きをどれくらいキャッチできるか調べた

相手が察知するだろうか?④ 行動実験2:周辺視で目の動きに気付く? ③ 行動実験の結果

「比較的近くに座っていても、細かい目の動きには あまり気付かない」 ④ 修正された受け止め方 自分が相手の視野の周辺に入っていても、自分の 細かい目の動きを過度に意識しなくてよいと理解

相手はどう受け止めるだろうか?① 投影による「相手の受け止め方」の偏りの修正 ・視線を合わせないと、相手はどれくらい不快に感じる? ・避けがちにしていると、相手はどれくらい気詰まりに? ・しっくりこない面のある人間関係は、どれくらい負担? ・汗をかいている人を見た際の、普通の受け止め方は?

相手はどう受け止めるだろうか?② ・「緊張」「沈黙」「ふるえ」「発汗」などの認知・対処 ・現在の見方は必ずしも間違ってはいないが、それだけだと 偏りが大きく問題(相手の受け止め方とのずれ、症状維持) ・他の色々な受け止め方もふまえられ、バランスをとれると 楽になることが多く、一般的な受け止め方に近づく (only one から one of them へ) (*)過去に他人から指摘された記憶が外傷体験となって おり、過度にとらわれこだわっていることが多い (*)“only one から one of them へ”は認知療法の定石

相手はどう受け止めるだろうか?③ ・「緊張」「沈黙」「ふるえ」「発汗」の他の受け止め方の検討 ・まじめ、ナイーブ、すれてない 、礼儀正しい→ 好印象にも ・一般に成熟した大人は早急で、一面的な判断をせずに 総合的な判断をする(例:その場の事情、他の特徴) ・外傷的な記憶の整理(例:当該のことをからかわれた) 相手の言い分が、本当に正しい? 他の見方、評価をされたことはない? 本人の長所の裏返しという面はない? その後の変化は? など (*)心理教育後、自己紹介でSADに触れうまくいった症例 (*)特に、自分が気にしている事柄以外で説明すると有効

社会不安障害でCBTが奏功した3症例

1.(自己)視線恐怖でCBTが有効であった症例 2.否定的な自己認知が変わり改善した症例 3.自己愛的な認知が変わり改善した症例

対人恐怖(自己視線恐怖)で 認知行動療法を行った症例 30代 男性 現病歴:10代後半、自分の視線が他人に不快な 感じを与えると心配するようになった. 同時に、他人の視線にも敏感に いくつかの病院・クリニックで薬物療法、 精神療法を受けたが改善せず、発症後 15年目に認知行動療法専門外来受診

心理教育・CBTの進展 1.心理教育:対人恐怖の病態、治療の説明 2.背景因子・病態・変化のポイントを説明 3.認知行動療法の実施 思考記録、行動観察、行動実験 など

思考記録の例 ①:#3 <状況> 家族で外食に行ったとき、向こう側の席に 座っていた女性と目が合ってしまった <気分> 落ち込み 90、いたたまれない 90、 いらいら 70 <自動思考>また目が合ってしまった.食べ終わる まで、ずっと気にしなくてはならない. あ~あ、つらく窮屈だし面倒だ <適応的思考>よく見ると、その女性は話し相手と の会話で夢中だ.離れている席にいる 自分のことなど、物の数ではないようだ <気分の変化>落ち込み 60、いたたまれない 60、 いらいら 50

思考記録の例 ②:#3 <状況> 交差点で信号待ちをしている時に、向こう 側で立っている人と目が合った <気分> 落ち込み 80、いたたまれない 80、 いらいら 70 <自動思考> 相手も目が合って、さぞ迷惑だろう. 変な視線を感じて傷ついたろう <適応的思考>そもそも、自分は相手にとって日常 風景のごく一部に過ぎない.これといって 特徴のない30男を、相手が気にかける とは到底思えない <気分の変化>落ち込み 40、いたたまれない 30、 いらいら 30

認知を修正したいくつかのテーマ 例1:女性の傷つきやすさ

例2:電車内で本・雑誌を読んでいる人 目を閉じている人

行動実験を通した認知の修正 ・周辺視される際の感覚は?

・周辺視で細かい目の動きに気づくか?

対人恐怖(自己視線恐怖)で 認知行動療法を行った症例 治療を通しての変化(まとめ) ・5回の面接で自己視線恐怖症状が改善 ・特に行動実験、思考記録が有用であった ・SADによる生活の支障が大幅に軽減した (*)シンプルな介入で、年余にわたる問題が 変化する場合もある

社会不安障害でCBTが奏功した3症例

1.(自己)視線恐怖でCBTが有効であった症例 2.否定的な自己認知が変わり改善した症例 3.自己愛的な認知が変わり改善した症例

否定的な自己認知が変わった症例 20代 女性 ・10代半ばから、視線・赤面・ふるえ・スピーチ恐怖 ・継続的に、希死念慮を伴う軽い抑うつ状態も併存 ・精神科で薬物療法を受けるが、症状は不変

否定的な自己認知が変わった症例 SADの心理教育・CBTを行う中で、以下が判明 ・母親は優しいが、自分と異なる資質で相互理解が困難 ・おしとやかさを尊ぶ保守的な家族・親類で孤立無援感 ・「父と似ている」と否定的な自己認知(短気、卑屈) 自信がなく、消極的でひきこもりがちな生活 ・結婚はしたが「楽しいことはない」「いつ死んでもよい」 ・出産も否定的(「同じDNAを持つ異常な生き物など・・」)

否定的な自己認知が変わった症例 精神療法による変化 ・母親との軋轢は自分が悪い訳ではない(資質の違い) ・「自分の中で何かが動き出した. 自分を縛っていた」 ・自分の資質を活かせて楽しめる活動が、徐々に増加 ・楽しんでいる自分を肯定的に受け止めることが可能に ・否定的な自己認知が変わると伴に、SADも改善

社会不安障害でCBTが奏功した3症例

1.(自己)視線恐怖でCBTが有効であった症例 2.否定的な自己認知が変わり改善した症例 3.自己愛的な認知が変わり改善した症例

自己愛的な認知が変わった症例 自己愛的なスキーマの修正が必要な場合もある ・自分は常に注目されている ・格好よく、手際よく見られたい ・恰好悪いところを見られ、失望されたくない → 常に気を許せず、緊張を解けない

自己愛的な認知が変わった症例 20代 男性 ・元来、負けず嫌いで目立ちたがり屋 ・X年(高3)、クラス替えの後なじめず不登校に ・視線恐怖、スピーチ恐怖、発汗恐怖が出現

・A精神科通院.薬物療法と精神療法で高校卒業 ・大学入学後、上京して治療中断 ・X+3年、SADの治療を希望して受診

自己愛的な認知が変わった症例 元来の自他観 ・自分が他人をいつも意識しているように、他人は 自分を注目している ・恰好よく、手際よく振舞って好感を持たれたい (電車内、たまたま入ったコンビニなどであっても) ・恰好悪く、手際が悪いと悪い印象を持たれてしまう 例:コンビニのレジでもたつく→要領の悪い人 汗をかく→緊張しやすいおかしな小心な人

→ いつも他人の目を意識し、緊張が解けない生活

自己愛的な認知が変わった症例 行動観察による変化 ・電車内、コンビニなどで他人の様子を冷静に観察 → ほとんどの人が、他者に関心を抱いていないと発見 → 「お互いに、とりたてて関心を抱かない都会の人間 関係」を実感 → 恰好悪い、手際が悪い様子をしても相手は気づかない ことが多いし、気づいてもさほど気に留めないと理解

不安障害の心理教育・認知行動療法 1.強迫性障害 OCD 2.社会不安障害 3.パニック障害 4.その他 外傷性精神障害 解離性障害 など

パニック障害の認知行動モデル ①出来事:引き金となる契機(例:電車に乗る) ②心身の変化の出現(例:軽いめまい、動悸) ③受け止め方:破局的認知(例:倒れてしまう!) ④感情:不安が生起(→さらに②が悪化)

(*)不安と身体症状が悪循環(→パニック発作) (*)予期不安の形成 (*)回避行動(例:電車を降りる/乗らない) →広場恐怖の形成

パニック障害の認知行動療法 ①出来事:引き金となる契機(例:電車に乗る) ②心身の変化の出現(例:軽いめまい、動悸) ③受け止め方:破局的認知(例:倒れてしまう!) ④感情:不安が生起(→さらに②が悪化) (*)予期不安、回避行動・広場恐怖 1.破局的認知の修正→認知療法

パニック障害の認知行動療法 ①出来事:引き金となる契機(例:電車に乗る) ②心身の変化の出現(例:軽いめまい、動悸) ③受け止め方:破局的認知(例:倒れてしまう!) ④感情:不安が生起(→さらに②が悪化) (*)予期不安、回避行動・広場恐怖

1.破局的認知の修正→認知療法 2.回避行動の修正 など→行動療法

パニック障害の認知行動療法 ①出来事:引き金となる契機(例:電車に乗る) ②心身の変化の出現(例:軽いめまい、動悸) ③受け止め方:破局的認知(例:倒れてしまう!) ④感情:不安が生起(→さらに②が悪化) (*)予期不安、回避行動・広場恐怖

1.破局的認知の修正→認知療法 2.回避行動の修正 など→行動療法 3.不安・身体反応→リラクセーション法

パニック障害の心理教育・CBT -従来の方法論で十分扱えない症例・従来の方法論では十分扱いきれない症例が 少なからず存在するように思われる

例:パニック性不安うつ病(貝谷) 不安を惹起するトリガーに関する 探索、整理が必要・有効な例

パニック障害の心理教育・CBT

-不安を惹起するトリガーの例と対応・トラブルの目撃 ・他者への反発、嫌悪感 ・家庭、職場、近所付き合いなどでの軋轢 ・疾病(発症)恐怖 例:過去のつらかった体験(例:離人症)再発 統合失調症発症(例:家族歴がある場合) ・封印していた感情、記憶を自覚する時 など (*)意識化・整理が安定化につながる場合

パニック障害でCBTを行った例 30代 女性 主婦 ・20代半ば、パニック障害(広場恐怖を伴う)発症

・何箇所かの精神科を受診しSSRI、IMPの投与を 受けたが、副作用が強く服薬継続できなかった ・抗不安薬のみでは、パニック発作・予期不安・広場 恐怖の改善が不十分で、CBTを希望し受診

パニック障害でCBTを行った例 パニック発作を起こしやすい状況 ・乗物(飛行機、新幹線など) ・言動が不安定な人(特に、男性)を見かけたとき ・夫、父親との軋轢状況 ・「自然」と接する、「造花」をみる

パニック障害のCBTの例 ー「私の不安の歴史」:テーマ①父親- ①言動が不安定な人(特に、男性)を見かけたとき ②夫、父親との軋轢状況

→「①と②には関連がある.だぶってしまう」 ・両親との関係の歴史 ・父親の期待に沿えないと、暴力・暴言 ・父親の浮気で家庭内不和→(陰で)母親の擁護 ・決めつけが強く支配的な母親にも反抗できない ・僻みやすく、気に入らないことがあると暴言を吐く夫

パニック障害のCBTの例 ー「私の不安の歴史」:テーマ①父親- ・父親への感情の意識化、明確化 (今まで)経済面や就職で世話になったこともあり、父 への感謝を意識するようにしていた.「もっとひどい父 親もいる」「自分は恵まれている面もある」

(変化)父と差し向かいになり、微妙な感じに不安に なった.「大丈夫、自分は自分を守れる」と考えた 「もういいや、この人のこと嫌いなんだと思って涙した」 「人間として哀れ.いいじゃん嫌いで、と思えた」 →かえって、屈託なく接することができるように

パニック障害のCBTの例 ー「私の不安の歴史」:テーマ②夫- ・夫への感情の意識化、明確化 (今まで)夫が不安定になり不機嫌になると、不合理な 恐怖心に襲われていた.首根っこを押さえつけられ、 夫の言い分に従って自分を責めていた (変化)夫の反応にも問題があると思えるようになった. 夫も親子関係に問題を抱えており気の毒な面があるに せよ、おかしいと感じるようになった. 腹が立つようになった.腹を立てる元気が出てきた

パニック障害のCBTの例 ー「私の不安の歴史」:テーマ③離人感- ・離人感をめぐる不安の意識化、明確化 ・トリガーとしての自然、造花 例:「きれいな自然を見ていて胸に迫るものがある」 母親が花を見て「これ、造花?」と言った ・離人症状で苦しんだ時期があり、想起して不安に また離人症状が出てくるのではないか? 精神病を発症するのではないか? → こうした不安を意識化し、検討することで改善

不安障害の心理教育・認知行動療法 1.強迫性障害 OCD 2.社会不安障害 3.パニック障害 4.その他 外傷性精神障害 解離性障害 など

外傷性精神障害と解離性障害の 心理教育・認知行動療法 ・外傷性精神障害 ・解離性障害

外傷性精神障害の 心理教育・認知行動療法 ・外傷性精神障害の心理教育では、次の2テーマを 扱うと有効なことが多い

・テーマ1:対処可能性;「過去」と「現在」の異同の検討 過去:一方的にやられっぱなし.手の打ちようがない 現在:周囲と連携して、冷静に工夫→対処の可能性 ・テーマ2:「自分の非」についての検討 今まで:自分にも、悪いところがあったのでは? これから:自分の非について客観的に判断、整理 (*)「とりかえしがつかないことか? の整理」「過去の 特殊性・例外性の確認」が必要・有効なことも

外傷性精神障害の認知行動療法 30代 女性 主婦 ・20代初めに同棲していた男性から激しいDV 顔をなぐりつける、背中を刃物で切られる、 手をホチキスでとめる、裸で外に出される など ・結婚後、昔の同棲相手が上京した噂を聞き発症 ・抑うつ気分、刃物恐怖、自傷行為、解離性健忘 幻視:「くらげみたいな黒玉」「モスラみたいな蛾」 ・各種向精神薬を服用するが不変.CBT希望し受診

外傷性精神障害の認知行動療法 ・2つのテーマ(対処可能性、自分の非)を話し合った ・#5に、以下を手帳に書いて持参.各種症状が軽快 ・自分は守られている ・自分を大事にする ・自分を好きになる ・過去と訣別する ・解離再発時には、関連する記憶を整理(例:運転)

外傷性精神障害に関する印象 ・我々精神科関係者には、トラウマ体験へのトラウマ (trauma of trauma)がないだろうか?

例:多くの「自称PTSD」「自称AC」との関わり トラウマ体験に関する偽りの言述 下手に外傷体験に触れ、収拾が困難に ・外傷体験へのこだわり、執着 ・相手(親など)への執拗な攻撃 など ・しかし、外傷体験の把握・対処はやはり大変重要

患者自ら表現する場合以外の 外傷体験の扱い方 ・患者自ら表現する場合以外では、以下の手順が普通 ① あるトリガーで、予想以上の反応がみられる(観察) ② 病態との関連を推測して、扱うか否かを判断(評価) ③ 「予想以上の反応」との治療者の観察を伝達(伝達) ④ 同意が得られたら当該テーマの由来を検討(検討)

死別反応で外傷性精神障害の 視点導入が奏功した2症例 1.同胞が自宅で自殺して死別反応が遷延した症例

2.夫の死去後、死別反応が遷延した症例

同胞が自宅で自殺して 死別反応が遷延した症例 20代 女性 ・X年、うつ病に罹患して通院していた同胞が自宅で自殺 ・隣室にいて気付かなかったことに、自責感を抱くとともに (「なぜ気づかなかった?」)、親族から批判めいた言動 ・兄弟の話を聞くとフラッシュバック、回避(例:カレー) ・その後うつ状態が遷延し、精神科を受診したが不変

同胞が自宅で自殺して 死別反応が遷延した症例 治療経過 ・隣室にいたが気付かなかった「自分の非」を検討 ・批判めいた言動への「対応の可能性」を検討

→ 早期に、死別反応から脱却

死別反応で外傷性精神障害の 視点導入が奏功した2症例 1.同胞が自宅で自殺して死別反応が遷延した症例

2.夫の死去後、死別反応が遷延した症例

夫の死去後、死別反応が 遷延した症例 50代 女性 ・X年、それまで元気だった夫が膵臓癌に罹患して3ヶ月で死去 ・自営業に力を入れ、夫への配慮が足りなかったと自責の念 ・親族からの批判(「一緒に暮らしていて、気付かなかった?」) ・夫のことを思い出すと、呼吸がしにくくなり動悸がする ・その後うつ状態が遷延し、精神科を受診したが不変

夫の死去後、死別反応が 遷延した症例 治療経過 「自分の非」「対処の可能性」について検討 ・膵臓癌早期発見・治療の困難さ(例:昭和天皇) ・患者が自営業に尽力していたことは、夫の希望 ・「もしも夫の魂が見ていたら・・」「逆の立場なら・・」 → 早期に死別反応から脱却

外傷性精神障害と解離性障害の 心理教育と認知行動療法 ・外傷性精神障害 ・解離性障害

自傷行為を繰り返した 解離性障害の症例 20代 女性 獣医学部学生

・X年7月、犬の解剖実習. 表面的には、率先して参加 ・その後、「解剖を行う大義名分があるのはわかるが、 生きている犬を殺すカリキュラムがあり、自分が参加 したことの気持の整理ができない」状況が続いた ・X年8月から、解離状態での自傷行為が頻発

自傷行為を繰り返した 解離性障害の症例 ・X年8月以降、何ヶ所かの病院・クリニックで 諸検査を受けたが異常なく治療による改善は みられなかった ・X+1年4月、CBT専門外来を受診した

治療の流れ 1回目面接:病態・治療モデルの提示 2回目面接:解離症状の一過性消褪(転移、期待) 3回目面接:解離症状再燃、認知不変 →「犬を飼いたい」「家で息がつまる」 →環境調整 4回目面接:「解離→緘黙」移行現象 →評価、環境調整 5回目以降:解離現象 消褪 (*)認知は不変だが、認知療法的アプローチが 治療導入・関係作りに貢献し、環境調整で改善 (*)解離では、「逃げ場」がキーワードの一つ →「犬の解剖・死」「家族の監視」からの逃げ場

うつ病の認知行動療法 原田メンタルクリニック・東京認知行動療法研究所 原田誠一

うつ病の心理教育① ー執着気質と3つの特徴ー <うつ病でよくみられ、発症・再発と関連しやすい特徴> ・執着気質:気分が持続しがち、気分転換が苦手 ・3つの特徴:協調性、強迫性、精力性 (笠原)

(*)以上は、社会適応の良い典型的なうつ病の説明 (*)社会(特にわが国)では、評価を受けやすい特徴 (*)「過ぎたるは及ばざるがごとし」→行き過ぎが問題 (*)全面変更は必要ない.微修正で融通がきくように (*)うつ病の心理教育の重要事項、CBT導入で有用

うつ病の心理教育② ー執着気質と3つの特徴ー <うつ病でよくみられ、発症・再発と関連しやすい特徴> 執着気質:陰性の気分が持続、気分転換が苦手 協調性:人との和を重んじる、配慮・気配りができる 思いやりがある、波風を立てない調整ができる 強迫性:責任感が強い、几帳面、仕事をきっちり行う 手を抜かない、中途半端にしない 精力性:頑張り屋、凝り性、熱中しやすい

(*)以下、各特徴の「問題点」と「対策」について説明

うつ病の心理教育③ ー執着気質の問題点と修正ー <うつ病でよくみられ、発症・再発と関連しやすい特徴> 執着気質:気分が持続しがち、気分転換が苦手 →考え込んで心配し続け、不安抑うつ状態に →考え・気持ちの整理の練習、CBT 協調性:人との和を重んじる、配慮・気配りができる

強迫性:責任感が強い、几帳面、仕事をきっちり行う 精力性:頑張り屋、凝り性、熱中しやすい

うつ病の心理教育④ ー「協調性」の問題点と修正ー 執着気質:気分が持続しがち、気分転換が苦手

協調性:人との和を重んじる、配慮・気配りができる 思いやりがある、自己主張を控えがち → 頼まれると断れない、必要な自己主張を控える、 対人葛藤が尾を引く (cf トラブルメーカー) 配慮不足の他人の言動に強く反応(例:傷つく、立腹) → 「断る」「自己主張」「葛藤の整理」「流し方」の練習 強迫性:責任感が強い、几帳面、仕事をきっちり行う 精力性:頑張り屋、凝り性、熱中しやすい

うつ病の心理教育⑤ ー「強迫性」の問題点と修正ー 執着気質:気分が持続しがち、気分転換が苦手 協調性:人との和を重んじる、配慮・気配りができる 強迫性:責任感が強い、几帳面、仕事をきっちり行う 手を抜かない、中途半端にしない →手を抜けない、いつも全力投球、メリハリがつかない、 中途半端がいやで極端に(例:やらない方がまし) 「ちょっとだけやる」ができない、人に任せられない、 自他のミスにこだわり、ひきずってしまう →手抜き、メリハリ、「ちょっとだけ」、人に任せる練習 (例:遅刻、時間休、半休をとる練習)、ミスの流し方 精力性:頑張り屋、凝り性、熱中しやすい

うつ病の心理教育⑥ ー「精力性」の問題点と修正ー 執着気質:気分が持続しがち、気分転換が苦手 協調性:人との和を重んじる、配慮・気配りができる 強迫性:責任感が強い、几帳面、仕事をきっちり行う 精力性:頑張り屋、凝り性、熱中しやすい →心身の疲れを無視して頑張る、無理をしてダウン こころが、脳と体に無理をかけてしまう →疲れのモニタリング(例:点数化)、心身の状態に 合わせた無理のない生活プラン、過信傾向の修正

うつ病の心理教育⑦ ー「うつ状態」の悪循環ー <うつ状態でみられやすい「悪循環」と「留意点」> 「悪循環」 ① 気分・体調の不調 ② 悲観、自責、あせり ③ 一層「気分・体調の不調」「悲観・自責」・・・

「変化のための留意点」 Ⅰ.①が生じた事情の把握、受け入れ Ⅱ.あせらず、「雨の日」なりに過ごす工夫 Ⅲ.悪循環からの離脱、早い回復 Ⅳ.①の予防、予期不安の軽減 (*)「待てる患者は良くなる」(中井) (*)パニック障害の悪循環と似た構造

遷延性のうつ病でCBTが奏功した症例 1.対・母親関係が負担になっていたうつ病症例 2.子どものことが重荷となっていたうつ病症例 3.夫・姑との関係が負担になっていた症例

認知療法が効果を示した症例 20代女性 うつ病 ・X年(20代前半)、抑うつ状態になり精神科通院開始 ・各種抗うつ薬の投与を受けてきたが、抑うつ状態が しばしば再発して、精神状態が安定しなかった.

・特に、母親との関わりで不安定になることが多かった ・X+2年、認知行動療法を希望して紹介受診した

母親にまつわる思考記録の例① (状況) 母から、「お前が家にいると家の中が暗くなる」と言われた (当初の受け止め方:自動思考) 一番身近な人がこう言うのだから、間違いない.私は家に いない方がいいんだ.自分などいなくなった方が家族の ためになるだろう (気分)罪悪感 60、絶望 70、自己否定感 70 (別の受け止め方:適応的、合理的思考) 誰だって暗くなることはある.一時的に暗くなって何が悪い のか.母がこう言うからといってびくびくする必要はない. 余裕がなく感情的になる母の問題が大きいのではないか (気分の変化) 罪悪感 40、絶望 30、自己否定感 30

母親にまつわる思考記録の例② (状況) 最近家の中で、母が私を無視する.家庭内別居という感じ (当初の受け止め方:自動思考) 私は母にとっていらない存在.自分がいても母を苦しめる だけ.私など、いなくなった方がいいんだ (気分)孤独 60、絶望 50、自己否定感 70、寂しさ 50 (別の受け止め方:適応的、合理的思考) 自分が最近、母にひどい迷惑をかけたことはない.母は いろいろなストレスで余裕を失っているのだろう.私は 母の所有物ではなく、れっきとした一人の独立した人間だ. 余裕のない母を思いやる必要はあるが、基本的に自分は 自分のために生きてよいだろう.自分のしたいことをしよう (気分の変化) 孤独 40、絶望 30、自己否定感 30、寂しさ 40

母親にまつわる思考記録の例③ (状況) 母が私に、「いとこは自分の問題があっても明るく頑張って いるのに、お前は何事も暗く考えて最低だね」と言った (当初の受け止め方:自動思考) 確かに、私は色々なことで心配して暗く考えがち.自分より 大変な人はたくさんいるのに、私はダメな人間だ (気分)落ち込み 40 (別の受け止め方:適応的、合理的思考) 人は人、自分は自分であって、単純な比較はできない. 確かに心配性でマイナスに考えがちだが、最近は随分 変わってきている.自分なりに努力している人と、境遇が 違う人を較べて良い悪いと言う人こそ最低ではないか. この件では、私は悪くない (気分の変化) 落ち込み 20

遷延性のうつ病でCBTが奏功した症例 1.対・母親関係が負担になっていたうつ病症例 2.子どものことが重荷となっていたうつ病症例 3.夫・姑との関係が負担になっていた症例

認知療法が効果を示した症例 50代女性 うつ病

・X年(50代前半)、抑うつ状態になり精神科通院開始 ・各種抗うつ薬投与を受けたが、改善がみられなかった

・特に、息子との関わりで不安定になることが多かった ・息子はひきこもり、家庭内暴力後、X+1年から独居

・X+3年、認知行動療法施行を希望して紹介受診した

家族にまつわる認知が変化した例① 当初の状況 ・OCDがあり、独居して引きこもっていて両親との接触を頑なに 拒否する子どもを心配して嘆く (現状の悲観的認知) ・自分の対応がまずくて、こうなってしまった.すべて自分のせい. 子どもが小さい頃の、無邪気で元気な様子を思い浮かべては 涙している (自責の念) ・家庭内暴力の際の本人のひどい言動を思い起こして傷つき、 身の置きどころがないと感じる (外傷体験)

・子どもの今後を考えると悲観的になり、何をする気にもなれない. これでは社会でやっていけないと考え、うちひしがれる. 子どもの存在が重く重く、のしかかってくる (悲観的将来観)

家族にまつわる認知が変化した例② 検討した事項

・独居して自立を模索している現状は、それ程 悲観すべき状況だろうか? ・現在、「両親への拒絶」を表明していることに、 評価すべき点はないだろうか? ・息子の現状を招いた原因のすべてが、患者 本人にあるだろうか? ・息子にとって望ましい、現在とりうる最良の対応 とは?

家族にまつわる認知が変化した例③ 変化の一例 ・現在の状態は悲しく不本意だが、自分が招いた ことではない.息子の将来に関して不安で一杯 だが、よく考えれば現状に至ったのには仕方ない 事情があった

・現在、自分が無理矢理努力しても良い効果を 生みだすことはない.今の自分は息子に関しては 何もできない、無力な存在

家族にまつわる認知が変化した例④ 変化の一例 ・今後が心配だが、息子のありのままを受け入れる しかない.神のような存在に任せ委ねるしかない. 息子が今の生活を選んだのだから、認めるしか ない.親があるがままの現状を認めていなかった ことは、息子にとってつらいものだったろう

・現状を受け入れて、自分が楽になろうと思った. そうすれば息子も楽になるだろう

遷延性のうつ病でCBTが奏功した症例 1.対・母親関係が負担になっていたうつ病症例 2.子どものことが重荷となっていたうつ病症例 3.夫・姑との関係が負担になっていた症例

認知療法が効果を示した症例 30代女性 うつ病

・X年(20代後半)結婚.同じ敷地内に夫の両親が居住 ・夫や姑から、本人に批判的で人格を否定する言動

・批判をそのまま受け入れて、自責的になり自信喪失 ・X+1年、うつ状態となり受診.薬物療法で変化なし ・X+4年、認知行動療法施行を希望して紹介受診した

認知療法が効果を示した症例 当初の様子

・自分に対して批判的な夫・姑の言い分を、鵜呑みに 「二人が同じことを言うのだから、自分が悪いんだ」 ・批判されると自責的になり、「自分などいない方が・・」

・思考記録でも、「適応的思考」「気分の変化」は空白 ・「心配をかけてはいけない」と考え家族に相談できない

・混乱し、全てに自信を失っている状態(学習性無力感)

認知療法が効果を示した症例 その後の変化 ① 思考記録などを用いた認知・行動の変化 徐々に夫・姑の言動の行き過ぎ、不当性を理解 ② 家族・友人との相談開始 家族・友人の感想・助言が、治療者の見解と一致

(*)CBTを開始して、1年後に離婚し実家に戻った (*)現在再婚して安定し、処方内容も大幅に減った

社会不安障害の観点を導入して CBTを行った遷延性うつ病の2例 1.職場限局の対人恐怖 2.職場限局の電話恐怖

職場限局の対人恐怖 「職場限局のSAD」が背景にある遷延性抑うつ状態 30代 男性 ・X年、仕事上のストレスがありうつ状態に ・不安・抑うつ症状が遷延化して、休みがち 「職場が怖い」「上を向いて歩きづらい」 ・X+6年、外来受診

職場限局の対人恐怖 本人の手記(#2):「負い目」「居場所のなさ」 ・頻繁に休み同僚に迷惑をかけるのを申し訳なく 感じて、卑屈になり萎縮・緊張してしまう ・うつ状態になって以来、昇進・昇給が遅れて強い 劣等感を感じている.元気だった頃とのギャップ が大きすぎる.周囲が事情を知っていて、同情や 蔑みを受けていると感じる.職場で知り合いを 見かけると、恥ずかしくて目も合わせられない

職場限局の対人恐怖 本人の手記(#6):「恐怖感を薄らげる方法」 ・職場の人に蔑まされているような気がしていた →周囲の人は、本当にそう感じているだろうか? →病気から回復した人に、自分はどう感じるか? ・調子がよくなり出勤できるようになって良かった ・調子を保って頑張って欲しいと応援する気持ち

職場限局の対人恐怖 本人の手記(#6):「恐怖感を薄らげる方法」 ・おそらく周囲も自分と同じように感じているはず ・他人の思惑を必要以上に悪く考える必要はない ・こういう見方が身につけば、恐怖感も薄らぐはず (*) 「負い目」の投影の変化

社会不安障害の観点を導入して CBTを行った遷延性うつ病の2例 1.職場限局の対人恐怖 2.職場限局の電話恐怖

職場限局の電話恐怖 ・遷延性うつ状態の背景に、電話恐怖・失敗恐怖が存在 例:「職場での電話応対業務が不得手でストレス」 「失敗するといたたまれず致命的.完璧でいたい」 「自分の弱点を相手に知られると、面目ない」 ・これを共通認識にして、ほぐすことが必要・有効 ・30代男性:抑うつ状態の背景に電話恐怖、失敗恐怖 職場のストレスで不安抑うつ状態となった. 背景の一つに電話恐怖 「完璧にこなしたい.弱みをまわりに知られたくない」

職場限局の電話恐怖 ・電話恐怖を扱った際のホームワークへの回答① ・電話への応対方法 今まで ・電話がかかってきた時に難しいことを質問されたり、 頼まれるのではという恐怖があった.自分でかける時も、 相手にきちんと伝えられないのでは、と不安だった これから ・相手を意識しすぎない.分らないことがあっても当然 と思って、身構えずに聞く.どうしても分からない時には 一旦電話を切って周囲の人に聞いて、かけ直す

職場限局の電話恐怖 ・電話恐怖を扱った際のホームワークへの回答② ・自分が知らない、できないことがある時の対応 今まで ・分からないこと、できないことを他人に知られることを 恥ずかしく感じて過度に卑屈になっていた.また、聞くこ とが相手の迷惑になると感じて、遠慮しすぎていた これから ・すべてをわかっている人はいないので、知らないこと を恥ずかしがらず積極的に聞く.そうすれば勉強になる. 人に聞いてもお互い様なので、遠慮しすぎないこと

外傷性精神障害の観点を導入して CBTを行った遷延性うつ病の2例 1.職場での外傷性精神障害 2.自宅での外傷性精神障害

外傷性精神障害の観点を導入した症例 40代 男性 うつ病 ・X年(30代後半)、職場の対人ストレスで抑うつ状態に ・「何にでも反対してくる部下」 ・「頻繁に連絡をとり、即刻の対応を求める部下」 ・対応に窮して抑うつ状態になり、精神科への通院開始 ・各種抗うつ薬投与を受けたが、改善がみられなかった ・強い職場へのアレルギーがとれず、近寄れない状態

・X+2年、状態改善のきっかけを求めてCBT希望し受診

職場にまつわる認知が変化した例① 当初の状況 ・自分は、ストレスで落ち込んだ弱い人間 (現状の悲観的認知) ・「何にでも、理由もなく反対する」「常に即刻の対応を求める」 スタッフの要求・期待に沿えない自分を責める (自責の念) ・「無闇に反対される」「常に即刻の対応を求められる」状況が 生々しく思い出され、絶望的に.悪夢も (フラッシュバック) ・こんな自分が、これから職務を全うすることはとてもできない (悲観的将来観)

職場にまつわる認知が変化した例② 検討した事項 ・「何でも反対」「常に即刻の対応を求める」スタッフの 態度は、社会人として果たして適切だろうか? ・事態が紛糾した責任を、すべてクライエント自身の 対応に帰すべきであろうか? ・万が一似たような状況になった際に、別の対応法が ありえないだろうか? 手の打ちようが、ないか? ・本当に、もう職場でやっていけないのだろうか?

職場にまつわる認知が変化した例③ 変化の一例 ・「何でも反対」「常に即刻の対応を求める」スタッフのスタイルは、 一般社会で忌避され敬遠される類の問題が多いもの ・問題が紛糾した主原因はスタッフ側にあり、患者側にではない

・万が一似たような状況に追い込まれても、 ・「非」の多くは相手にある ・常識的な多数派を味方すれば、「対処の可能性」がある ことを踏まえれば、異なる対応が可能かもしれない ・何とか、これからも役割をこなしていけるかもしれない

外傷性精神障害の観点を導入して CBTを行った遷延性うつ病の2例 1.職場での外傷性精神障害

2.自宅での外傷性精神障害

外傷性精神障害の観点を導入した症例 50代 女性 気分変調症 ・X年(40代前半)、パートの勤務先の雇用主にふりまわされた ・対応に窮して抑うつ状態になり、パートを辞めたあとも持続 ・元雇用主を怖れて避け、相手に恐怖感・恨みを抱き続けた ・生活史:「母親から虐待」「父親がアル中」「夫がアル中でDV」 ・10箇所以上の精神科医療機関で治療を受けたが、変化なし

・X+9年、状態改善を期待してCBTを希望し受診

認知の変化例① 当初の状況 ・元・雇用主が怖くて仕方ない.極力顔を合わせないようにして おり、逃げ回っている (現状の悲観的認知、無力感) ・自分に不十分な点があるから、あのように振舞うのだろう (自責) ・アル中の夫に暴力をふるわれ、実母から虐待を受けた自分には 対抗する権利も根拠もない (外傷体験) ・こんな自分には、これからもいいことなないだろう(悲観的将来観)

認知の変化例② 検討した事項 ・元雇用主に関する見解は本当に適切だろうか? 対抗する 手段はないか? やられっぱなしになるしかないのだろうか? ・現状を招いた責任が、すべて自分にあるのだろうか? ・今までと違う別の対応法がありえないか? 手の打ちようが、 全くないか? ・夫や家族への現在の対応がベスト? 別の対応法がない?

認知の変化例③ 変化の例 (1) ・元雇用主を怖れて逃げまくっていたが、冷静に良く考えて みると、常識からずれているのは相手側 ・元雇用主をそう怖がる必要はないし、対処可能.周囲と 連携して「自分に責任はない」「他のやりたいことをやる」 ・夫、母親に関しても同様.自分側に大きな問題はないし、 自分の気持ち、決意を相手に伝えることは可能

認知の変化例③ 変化の例 (2) ・自分の現状を認めて受け入れることが大切だし、今の 自分はそれが可能.自分の正当性をずっと求めてきた ・元雇用主、夫への恐怖心が吹きとんだ ・夫に、「今度飲んだら家を出ます」と手紙を書いた ・現在までのところ、夫は断酒し暴力もおさまっている. 一緒に散歩、外食、落語鑑賞などができるように

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